自分のチョイス,他人のチョイス

5月は時間的にもおカネ的にも,松竹さまに捧げてしまいましたわ.
結局,菊たんの京鹿子娘二人道成寺を6回観てしまいました.
あらかじめ買ってあったチケットで1階で1回,3階で1回.そのほかに幕見で4回.
後半は幕見がものすごく人気となっていて,確実に道成寺を観るためには,石切梶原+道成寺で買わなければなりませんでした.
なので,結局,石切梶原も4回観てしまいました.

石切梶原はストーリー的にはものすごい感動ドラマ!というわけでもなく,わたしとしては,道成寺のおまけ(関係者のみなさんごめんなさい)という感じだったのですが,1回,2回と回を重ねて観るごとに,ものすごくいい舞台だ,と思えてきました.いわゆる糸に乗って,という.役者さんと大夫,ノリノリな三味線.本当にドリフなシーンがあるのもご愛敬.
インターネットで検索した1篇の論文を読むのではなく,雑誌で次のページを何気に読んだらとっても興味深い論文だった,というかんじでしたの.
自分の好みだけをチョイスするのもいいけれど,与えられたものをそのまま味わうのもいいものね.と思いました.幕見の列では,「しょうがないから石切梶原から買う」なんて言っている人が多かったけれど,お芝居のあとに「観てよかった」と思った人も多かったのではないかしら.

道成寺はそれはそれは夢のような舞台でしたが,肉体の芸術の残酷さ,をつきつけられるようでした.玉三郎丈の足が悪いのがうかがえてしまう日があって,胸が痛くなりました.背中にゼンマイのねじがついているのかしら,とも思えるような菊たんの毬歌.いったいどれだけ身体が軟らかいの,と思える菊たんの海老反り.でも菊たんもこれから永遠にそれらが続けられるわけではないのです.「肉体の芸術ははかないもの.毎日毎日が真剣勝負,一期一会のつもりでお役と向き合います」は,結婚前の会見での菊たんの言葉ですが,はかないからこそよけいに素敵,なんて言ったら,バチがあたってしまうでしょうか.