ミレニアムな思い出

10年前の大みそかは,2000年問題というのがあって,わたしは病院で過ごしたのでした.
レスピレーター患者脇のスタンバイとか,モニター監視係とか,いろいろな役割があって,人々は大忙し.おまけにエレベーターは日付が変わる少し前から運転を停止することになっていたので,2階にある医局と10階にある病棟の移動は階段!でしたの.
どこから予算がついたのか,病院では,新年を病院で迎える職員のために,おそばを大量に発注していました.あらかじめ,病棟,手術室,医局など,部署ごとに勤務者数を申請し,夜になったら,看護部長室(ここがなんだか不思議でしょ)にもらいに行くことになっていたのでした.申請のときは,勤務者名での申請ではなくて,人数での申請だったので,病棟で一人分,手術室で一人分,医局で一人分,なんてカウントされている人も大勢いて,おそばのパッケージが病院のいたるところにあふれていました.
その頃の病院の医局の冷蔵庫にはビールがたっぷり入っていて,新年を祝って乾杯!となることは容易に想像ができましたの.
みそかを病院で過ごすなんて.
せめて,少しはおいしいものを.
そう思ったわたしは,モエの紅白のシャンパンとチーズを買って,大みそかの病院に出かけました.で,医局の冷蔵庫の中にそれらを入れました.夕刻から医局のソファでごろごろしているおじさんたちに,「カウントダウンになって,なんにも起きなければ,これで乾杯しましょうね」
そしてわたしは,病棟へ.
いろいろ大騒ぎをした割には,なんにも起きませんでした.除夜の鐘を聴いて,新年を祝う花火の音を聴くことができました.
さあ,シャンパンですわ!
医局へ降りていったわたしの目の前には,すでに開けられていたシャンパンの瓶と,すでにできあがってしまっているおじさん医者の姿がありましたの,ああ.
「いやー,のりせんせい,気がきくね」はあ?
「そば,いっぱいあるぞ」はあ?
どう考えても,みなさん,12時の時点で,仕事してないんですけど.
病棟は落ち着いているし,わたしはおそばを食べて帰りました.

何年かあとに,そのときの医局にいたせんせいに会った時,「あのときののりせんせいは,目が怒っていた」といわれてしまいましたの.
いい気分できあがっていたのは,単身赴任をしていた心臓外科のせんせいでした.今から思うと,おうちに帰れないおおみそかに,とりあえずちょっとおいしいお酒が冷蔵庫に入っていれば,12時まで待てなくても仕方がないのよね.心臓外科のせんせいは,その後メスを置かれました.今年の大みそかはどんなお酒をのんでいるのかしら.