僕はパパを殺すことに決めた

本屋さんでこの本をみて、ふらふらと買ってしまったのは夏の頃でした。
奈良の高校生が放火した有名な事件の本です。

表紙には少年が書いた実行までの日々の簡単な記録が焼け落ちた自宅の写真に重なるようにレイアウトされている、胸が詰まりそうな本です。
見返しやしおりの色を含めて、静かで心に染み入るようなかなしく美しい装丁です。ただし、腰帯の「過熱する受験戦争への警告の書」というのが、めちゃくちゃとんちんかんですが(これを書いた人って本文を読んだのかしらってかんじ)。

こんな本が出版されて、関係者はどんなに心が痛んでいることでしょう(と言っているわたしもこの本を買ってしまったのですが)。そして、一方で、発達などを専門とするような精神科のドクターや教育関係の方々にとっては、この本に掲載されてしまった供述調書は、非常に参考となる症例のプレゼンテーションなのかもしれません。

何年か前の学会で、写真撮影や内容の漏洩を厳しく禁じた上で発表された演題を聴いたことがありました。東海村の事故の症例のプレゼンテーションです。専門外のわたしにとってもとても勉強になる演題でした。

たぶん、この少年の供述調書を含む事件の全容は、上手に使えば、どこかのだれかが次の事件を起こさないための大切な資料になりうるものだと思うのです。
ただし、広く世間にばらまく必要はないし、ばらまいてはいけないものであるとわたしは思います。講談社から1,500円で発売して本屋に平積みされるようなものではなく、何年かの後に個人名や団体名を伏せた形で、たとえばミネルヴァ書房から、4,800円くらいで出版されるのがまだ妥当なのではないか、とわたしは思います。

読んでいて、涙が止まらなくなった本ではあるけれど、読んだ後にとても罪の意識を感じてしまうような本でした。

なかのひと