アンチゲネミアと混合診療

混合診療に対しての判決で、医療系ブログなどではいろいろと盛り上がっているようです。

ステロイド内服中の患者さんにサイトメガロウイルスアンチゲネミアの検査を出したのが保険の審査で引っかかってしまったわたし。「この検査はHIV感染症または移植後の患者にしか認められておりません」と事務的な付箋がついてレセプトが戻ってきてしまいました。「これは保険では認められないから保険から出る分のお金は払わないよ」ってことのようです。これまではアンチゲネミアの検査を出しても、事務さんがなかったことにして患者さんおよび保険機構には請求をださず、病院がかぶっていた(費用を負担していた!持ち出しってことね)のですが、今回担当者が変わったため、間違えて請求してしまったらしいのでした。

意識状態が悪くて、肺炎を起こしていて、肝機能障害があって、とっても具合が悪かったおばさん。デノシンの点滴をしたら、しゃきっと元気になったおばさん。サイトメガロはビンゴでした。

今は健康保険でだいたいの医療行為がカバーされます。保険が通らない検査でも患者さんのためにどうしてもした方がいい、ということについては、特に大学病院などでは病院の持ち出しで検査をしています。患者さんに現在のレベルでの最良の医療を受けてもらいたいからです。せっかく治療するなら自分の知識と技術をすべてつぎ込みたい、という診断治療職人としての誇りみたいなものもあったりするし。

でも、混合診療がはじまったら、と考えると、ちょっと怖くなります。ごくベーシックな部分は健康保険でカバーされるとして、それ以上の部分については患者さんのおさいふとの相談になるわけです。マスコミでは先進的な画期的な治療について自己負担をすれば、受けることが可能だ、なんて書き方になっているのでしょうが、先進的でないものでも、結構保険では認められていないのが現実だと思います。
混合診療になれば大手をふってアンチゲネミアの検査もできます。ただし、患者さん負担でね。調べてみるとアンチゲネミアは1回4,000円です。4,000円が払える人にはできる検査ですが、4,000円が払えない人にはできません。

別に先進的なものでなくても保険がきかないことになっている検査法や治療法はいくらでもあるわけで、これまでは病院のほうでなんとなく持ち出していたり、保険がきくいんちき病名をつけて保険を通してしまったり(これがばれると不正請求といわれるのだけれど、病院の好意による持ち出しにも限度があります)、なんとかしていたのですが、混合診療解禁になると、これが全部患者の人びとにふりかかるのです。

患者の立場から言えば、「お金のあるなしで治療が変わる。命もQOLもお金しだい」ということになります。治療者の側から言えば「患者にお金がないばっかりに、自分として満足の行く治療ができず、胸が苦しい」ということになってしまいます。

ネオーラルを使っている人にヘンな熱があったらアンチゲネミアを検査したい。敗血症が続くときはガンマグロブリンをたくさん使いたい。白血球・血小板異常低下があれば妊婦でなくてもパルボB19の抗体価を調べたい。こんなとき、今であれば「病院の赤字のもとになるけれど、今回は絶対に必要だし、まあいいかっ、」なんてどきどきしながら最小限ということでこっそりしています。でも今後は、○○さんは特Aコースなので全部オッケーね、××さんは基本保険コースなのでできません、と割り切らなければいけないことになりそうで、わたしはそれに耐えることができるか、不安です。
最近いろいろな病気につかわれはじめているレミケードとかエンプレルなどのお薬(1日あたり4,000から5,000円くらいかかる)も、保険適応はいくつかの疾患だけにしか解禁されないと思うの(保険適応を広くしたら保険パンクにつながるため)で、保険がきかない病気に対しては、自費!ということになり、費用を払い続けることのできる人にしか使うことができないなんてことになりそうで、なんだかな、というかんじです(アメリカではすでに実際そうなのだと、イケメンのマミたん教授が学会で顔を曇らせていました)。

きょうはちょっとお酒を飲んだあとなので、文章がヘンでごめんなさい。でも、アンチゲネミアの現実がちょっとぐわーんときましたの。

今の医療にかけられているお金では、アンチゲネミアの費用も、レミケードやエンブレルの費用も支えきれないのですけどね。

NATROMせんせいのところhttp://d.hatena.ne.jp/NATROM/20071115トラックバックしてみました。うまく送れるかな?

なかのひと