病院建築に思うこと

わたしはこれまでに、新築の病院、昔の名建築の病院、中くらいの病院、などいろいろな病院で働いてきましたが、どの病院も良いところと悪いところがありました。

漆喰の壁に腰板が貼ってある院長室の床は細かなタイル張りで模様が描かれている、なんて病院もありました。とても素敵でしたが、いろいろな法令に合わないらしく、味気ない病院に建て替えられてしまいました。
聖路加を倣ってカーペット張りの病棟にした病院で働いたこともありました。でも、その病院は老人の患者さんが多く、メンテナンス予算は少なくだったみたいで、あっというまにおしっこくさい廊下になってしまいました。そこだけ替えられるようにタイルカーペットにしてあったのだけれど、汚れても替えないのだから仕方ありません。
無菌室の前の手洗いが自動水洗になっていない病院もありました。はあっ?

もう古くなった病院で使い勝手が悪いのはあきらめもつきますが、比較的新しい病院で動線がめちゃくちゃだったり、収納計画が悪すぎだったりすると、悲しくなります。

ひとつだけ、病院の新築に居合わせたことがあります。外来は各科の部長のところに1/100の図面が降りてきて、これでいいですか?希望があったら、提出してください、というあっさりしたもの。病棟は看護部が決めたみたいでした。設計会社の担当者と直接会っていろいろ話をする機会というのはありません。
わたしは図面を見たり、インテリアを考えるのが好きなので、部長から図面を奪いとって、内装の仕上げ表を見ながら、「ここ、自動水洗にしてください」「ここ、棚をつけてください」とリクエストをたくさんしてしまいました。そして、スタッフ廊下には高さ90cm、奥行き60cmの作り付けのワークテーブルをこっそりつけてもらいましたの、うぉほっほ。病院のナースは忙しいので、座って作業することはまずないのですが、作業に適した奥行きが浅いワークテーブルは製品としてはほとんど売られていないのです。なので、こっそりオーダーメイド!病院の作業台はちょうどキッチンに似ています。標準的なキッチンの高さは85cmか90cm。病院ではナースシューズをはいている人が多いし、書き物をするには立った姿勢での肘の位置が重要なので、と90cmにしました。これは使い勝手がとても良くて、えっへんでしたわ。わたしのリクエストから実施図面を起こしてくださった方にはお礼を言いたいのだけれど、お会いする機会などありません。
できあがりが近づいたら、夜や休日に、デジカメとコンベックスを持って現場に行って、自分でいんちき展開図を作成しました(展開図も天井伏図もなかったので)。いんちき展開図のおかげで、他の科のように、家具を運び込んだらコンセントが死んでしまった、とか、冷蔵庫を置く場所がなかった、という目には合わずにすみました。

本当は、実際にそこで働く各部署のスタッフと設計会社でよく相談をして、安全であること、仕事のしやすい動線であること、使いやすい仕様であること、などを突き詰めていけばいいのでしょう。でも、設計にかけるお金が少なかったり、各科のスタッフが日常の仕事に追われてエクストラの仕事にかける時間も気力もなかったり、が現実なのだとしみじみ思いました。それと建築基準法が改正されて、できあがり近くになってから内装リクエストなんて、ひょっとしてもう不可能になっているのでしょうか。

日経アーキテクチュアとかで、「ケーススタディー 実用的な医療施設づくり」なんて特集を組んでいただけないかしらん。

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