教科書リテラシー

研修医くんが小鼻を膨らませながら,売れ筋の感染症のテキストを読んでいます.
全ての内容を頭の中に叩き込もうとしている研修医くんは,なかなか真面目な好青年です.
わたしがクラビットを4錠/2×で処方するのはいけていなくて,5錠/1×で処方しろよ,と言い出しかねない勢いですの.脱水がひどくて血管が見えないような患者さんからでも,30分くらいかけて,血培2セットとりかねませんの.

わたしはその光景をみて,すごく面白いな,と思いました.

そういうテキストの場合,すでに直接患者さんをうけもつことのない立場の人が,全ての分野の感染症にわたって,1人で書いているので,内科の王道とは異なるわたしの専門分野については,疾患概念からして激しく間違っていたりすることがあります.どう考えたって,診断・治療をした経験に乏しいことについて書いているですもの,ちゃんとしたことが書けるはずがありません.難症例にあたってしまって,狭い範囲について深く文献にあたって,はじめてわかってくることもあるはずだし.非難するつもりはないけれど,それほど期待もしていません.どうせだったら,わいわいがやがやいろいろな人に分担執筆させちゃって,自分はコーディネーターに徹すればいいのにね.

なので,わたしは,そのテキストにおいて,他の領域についても,けっこうあれれ?だらけだろうな,と思ってますの.そして,それはたぶんわたしだけではなく,わたしのまわりのオトナの医者もそう考えているはず.さーっと読むにはいいし,ふーん,と読んで,参考にするところは参考にするけれど,必ず自分のフィルターを通さなくちゃね.これは,っと思ったら,原著にあたらなくちゃね.

でも,研修医くんはそのテキストを聖書のようにあがめています.彼はまだ,特定の領域について深くかかわったことがないので,その手のテキストが実際のところところどころ激しく間違っているであろうことに気づくことができないのです.その手のテキストは・従来のやり方がいかに間違っているかを繰り返し記述している ・耳に残りやすいキャッチフレーズをところどころにちりばめている という特徴があるので,ちょっとカルトみたいなかんじでもあります.

これって,何かに似ていますわ.

べつにその著者のせんせいをおとしめるつもりはないけれど,研修医くんには,「このせんせいだって,○○なんて,自分で診たことないとおもうよ.この本ばっかしでなくて,もう2種類くらい,感染症のテキストを買って読んでごらん.細菌学の教科書も読み直してごらん.」と言ってみました.