パルプ・フィクション

ずっと昔,田んぼの中にある病院で働いたことがありましたの.
遊びに行くようなところもなく,病院の敷地内にあるアパートに住んでいました.
クルマを運転していくジャスコが唯一のお店.
わたしは退屈しのぎに医局で料理をしていました.
ビーフストロガノフやシチュウといった煮込み料理から,オックステイルのロースト(これはお休みの日にお出かけをして材料を買ってきたのだけれど)まで作ったこともありました.
当然,よく日の医局は料理のにおいがカーテンにしみついてしまったりしていましたの.
kitchen-norinoriのお客は,病院から離れられない下っ端のドクターや単身赴任のおやじドクター.
味にこだわりのあるひともいれば,ケチャップがあればOKなんてひともいました.
「のりちゃんの作る料理はいつもおいしいね」
と言われて,
「だって,食べる人が高血圧になろうが糖尿病になろうが関係ないから,作りたいようにつくっているから」
と答えたことがありましたの.
その病院をはなれてしばらくたって,あるドクターが心筋梗塞になったのを知りました.
いろいろいたお客のなかで,いちばんおいしいものとそうでないものの区別がついていたとわたしが思う彼は,30歳になるかならないかで,倒れてしまい,その後,メスを握ることをやめたとききました.
けっこうへビー・スモーカーだったし,倒れたときのいきさつについてはよく知りません.

おいしい料理をつくるのと,体に悪くない料理をつくるのが,うまく両立できるといいのにね.
バターどばーっなんて料理をつくると,罪悪感がわたしのあたまをよぎります.でも,つぎの瞬間に,マーガリンじゃないからいいかな,とか,ひき肉料理よりはましでしょ,なんて言葉が浮かんできます.
いちおうメリハリをつけて,肩ロースの次の日は鶏のささ身とか,たまごは1週間に7個,とかね.
栄養学としての料理と文化としての料理の両立は永遠の課題ですわ.