もうひとつのtomorrow 第6話

なんやかんやで半分きましたわ.
どうしてもギバちゃんの役が思いつかないわたしですの.

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じりじりと熱い夏の日.
医局のラウンジがざわざわしている.
院長が倒れた.赤十字病院神経内科に入院しているらしい.
「いやあ,うちも今年の春から脳外科がなくなっててよかったよ.もしあったらさ,院長ここで入院か?ってかんじ.まあ,それはないか」とたまきに話しかける猫背椿
「でも脳外科なくなったお陰で,当直少し楽になったよね」とつづける猫背.
「えー,かわりに日赤は大変みたいよ.うちでとってた分も来るようになったし,おまけにtPA当直ができちゃって,吐きそうって神内の子が言ってた」とたまき.
「だね」と猫背.「tPA当直ってサイテーだっていうじゃん」
たまきはぼんやりとはす向かいのソファにいる山下と浅利の姿を見ている.二人は結構仲よさそうである.

手術から上がってきたクラノスケが医局のソファでミネラルウォーターを飲んでいる.

麻酔医室で,ノートパソコンを閉める北村.今日は仕事が終わりのようである.

赤十字病院の病室に見舞いに行く三浦友和
児玉清院長はネームプレートを外した個室に入っている.
「おととい,再梗塞がきて」と院長の妻.
院長はごーごーと眠っていて反応しない.
「副院長先生ともよく相談しないといけないんですが」と妻.
「2週間前に市長との話し合いがあったんです.それから眠れない,眠れないとなって,イライラしていて.」妻が続ける.

三浦友和の自宅.黒木瞳が三浦の脱いだ背広を受け取る.
「院長の病状は伏せて,といっても伏せ続けられるものではないけど,寺田副院長がしばらく代行という形をとる.ただし,腎臓内科も寺田副院長と若い小栗君とかいう先生のふたりなので,結構きびしい.それで,僕にも病院運営について少し手伝ってほしい,といわれたよ」
「寺田先生って,去年奥様なくされたばかりでしょ.大変だわ」
「これまで病院は火曜日の健康管理室と更年期外来だけだったけれど,来月からしばらく,火曜,金曜で病院に行くようになるよ」
「病院の先行きが心配だわ」
「小児科がああなっただろ.あと,ひとつ,とても心配なことがある.来年春に,日赤が総合周産期母子になる.それから,救命センターを拡充する.それにはナースが必要だ.市民病院からもたぶん移る子は大勢いるだろう.言うまでもなく,働ける子から移る.」

自宅で夕食後のひとときを過ごすクラノスケ.子どもに絵本をよんでやっている.
病院のケイタイが鳴る.
クラノスケの表情が変わる.
「オペ室開ける手配して.北村センセイには僕が連絡するから」
クルマを出すクラノスケ.運転するクラノスケ.

夜の病棟.夜勤のナースがばたばたしている.
病棟に到着したクラノスケ.
病棟では浅利が患者の吸引をしているがあまり要領はよくなさそうである.

手術室の残り番が手術室の準備を始めている中,北村が到着する.
搬入される患者.口から血を吐いている.
北村が手早く挿管する.
どうやら扁桃摘出後の後出血らしい.

止血操作が終わり,ふーっとため息をつくクラノスケ.
「どんなバカでもいいから,子分がほしいよ.これでいいか,これでいいな,と言いながら仕事ができたら,どんなにいいかと思うよ」とポツリ.
北村がそんなクラノスケの表情を見ている.
「浅利みたいなヤツでもか?」といたずらっぽく優しい口調の北村.
「浅利みたいなヤツでもね」

駆けつけた家族に病状説明をするクラノスケ.
家族が寝静まった家に帰宅するクラノスケ.

誰もいないマンションの部屋に戻る北村.部屋のなかはぐちゃぐちゃである.
冷蔵庫を開けて,中に入っていたバナナを食べる北村.

あくる日.麻酔医室のソファで寝ている北村.
外来をこなしているクラノスケ.

医局会.司会はクラノスケ.出席者のなかに三浦友和の姿もある.
「僕としては,救急患者の診察の停止を市に提案しようか,なんて考えています.院長が倒れたことによって,腎臓内科も実質的に小栗先生ひとりのようなものになりました.夜間透析の負担を考えると,小栗先生も当直を外さないわけにはいきません.現在,複数人数のいる科を考えると,外科が3人,整形外科が2人,呼吸器内科が2人,消化器内科が3人,であとは1人科だけです.昨年と比べ,脳外科がマイナス3,整形外科がマイナス1,小児科がマイナス1,耳鼻科と皮膚科がマイナス1,とすでに7人減っています.1人科にはオンコールの負担だって大きいです.
この際,法律を盾にとってもいいんじゃないか,と.救急外来だって,くっだらない患者が多い.重症は結局日赤に送ることになる.なら,いいんじゃないかって思うんです.軽微な電話番と入院患者のみまわりで.」抑えた声でゆっくりしゃべるクラノスケ.
あー,言っちゃってるぜ,という表情の三浦友和
「僕ね,この間,市のホームページを見ましたよ.市議会の議事録.病院に検診センターを併設して売り上げを上げるなんていう計画がある.検診であれば医者がいなくても売り上げがあがる,なんてバカ議員が言ってましたよ.PETはどうか,なんて言ってるバカもいましたよ.放射線科医のいないこの病院に?」
クラノスケの言葉ににやっとする小栗旬

小栗旬のアパート.パソコンを立ち上げ,市のホームページを見ている.
医療と福祉という項目をクリック.
「心のふれあう温かなお産 市民病院産婦人科 武田鉄矢」なんて項目がさりげなくある.
それと並んで
「気をつけよう,家庭内の危険 市民病院小児科 鶴田真由」なんて項目もまだある.
市議会議事録のPDFをつぎつぎと開いていく小栗.ファイルに保存し,プリントアウトしていく.

医局に貼りだされる9月の当直表.
猫背がクラノスケに言う.「この間のはなし,どうなったのよ.言うだけでなく,本気でやらない?」
当直表の横にさりげなく貼られている市議会議事録のPDF.

夜の医局ラウンジ.検食を食べているたまき.
その横でソファで寝ている浅利.別のソファで寝ているヤマシタ.
別のソファに寝転んで,大型テレビでDVDを見ている北村.DVDの画面はさりげなく「大いなる休暇」.
院内ポケベルが鳴り,ヤマシタが起きて救急外来へ降りていく.
たまきの院内ポケベルも鳴り,たまきも食べるのをやめて,救急外来へ降りていく.
浅利は気持ちよさそうに寝たままである.

日曜日の昼下がり.ショッピングセンターに併設されているレンタルショップの横でZ4のエンジンをかけようとしているヤマシタ.
「ヤマシタせんせい!」女の声で振り返る.
女はいつかのリストカット患者である.
やあ,と二言三言かわして,Z4を発進させるヤマシタ.
女は彼氏らしい若い男のもとに戻る.男がヤマシタに向ける嫌そうな視線.
2人は男のワゴンRに乗り込む.

なかのひと