妄想プロット:ROSADO RESERVAの幻想

クリスマス用のシャンパンを買いに,エノテカへ出かけた.
クリスタルが売っていたけれど,高すぎ.
ふと,見上げた棚に,きれいなルビー色をしたCAVAがあった.
ZETA ROSADO RESERVA と書いてある.
私はあることをふと思いついた.
これって,いけるかも.

クリスマス・イブは旬のマンションで過ごすことにしていた.
私より8歳年下.不道徳というひともいる.
日頃,私はひとから好奇心の奴隷といわれている.
いろいろなものを突然,好きになってしまう.雷に打たれたように,それはとても激しく.
そして,好奇心が満たされると,頭の上から雲が去るようにふっと忘れてしまう,というかどうでもよくなってしまう.
私に好きになられて,そして興味をなくされたひとには,とても迷惑なことで申し訳ないと思う.
でも,自分でもどうにもならないので,もう諦めている.

「今日はね,ちょっとすてきなお酒をもってきちゃった」
私はルビー色したCAVAを旬に渡して,冷蔵庫へ入れておいて,と言う.
旬は高いお酒には興味がないひとなので,クリスタルを持ってくる必要はない.
飲むときに,言おう,「これはシャンパンじゃなくて,スペインのスパークリングだから,カヴァっていうのよ.シャンパンよりずっと安いけれど,結構おいしいのよ.ZETAって極める,ってためのネーミングなんだって,エノテカのひとが言っていたわ」
そして,ラベルを旬に読ませる.
旬の高校の大先輩とほんの少しだけ付き合っていたこともある私は,旬がある話をはじめることを期待している.今日はクリスマス・イブ.目の前のお酒はスペインのロサド.
「ロサド先生の馬小屋の話をしてよ」なんて直接は言わない.旬がふと気づいて,話しはじめるのを待ってあげる.あなたの大先輩がいろいろ話してくれたように,すてきな話をたくさんしてくれるのを待ってあげる.私はその話を初めて聞くように,真剣に聞いてあげる.旬は素敵な思い出を記憶の底から引き出すきっかけを偶然(本当はちがうけれど)作った私を,ぐっと好きになってくれるかもしれない.私が昔に付き合っていた大先輩の話なんて知るわけもないのだから.

なんだか,あこぎな手を使ってしまうようだけれど,これはちょっとしたチャンス.旬の心をひきつけるためのチャンス.そして私はもう一度,クリスマス・イブに,ロサド先生の馬小屋の話をききたい.

なかのひと