感染症と病院建築

わたしが前に働いていた病院で,感染病棟がある病院がありました.
一般病棟の奥に,普段は閉鎖している病棟があり,はしかとか水ぼうそう,インフルエンザはそこへ入院させていましたの.病棟の中にいくつか陰圧の個室もありました.病棟と名がつくからにはナースステーションもありました.
でも,困ったことが二つ.
ナースステーションがあっても,専属のナースがいるわけではありません.
特定の感染症が大流行すれば,院内他病棟からの寄せ集めで看護チームをつくるのかもしれませんが,普段(まあ普段は空き部屋でたまに入院患者が発生したとき)は隣接した病棟のナースが看護にあたる,ということになっていました.深夜帯は日によっては2人勤務になるときもあり,わたしはよく,「とっても看きれないのでこっちの病棟の個室じゃダメですか」と言われました.
もうひとつ.感染症の患者はときとして脳炎になったり,人工呼吸器が必要になったりするのですが,常在のナースがいないような病棟の病室にそんなひとをぽつんと一人で置いておけるわけがありません.とうぜん,しかたがないので,一般の患者がいる病棟での入院です.
全国の病院で人工呼吸器につながった麻疹肺炎を陰圧個室で看護しきれる病院はどれだけあるのかな,と思うときがありますわ.

空気感染の患者を受け入れるのであれば,本当のことをいえば,病院設計の段階から考えなくてはならなくて,一般外来とは異なる経路の外来診察室と入院病棟が必要です.
ここまである病院は本当に少ないはず.
そして,それがある病院であっても,フルモニターで人工呼吸器対応ができる病室がその中にいくつあるのかな,って思います.

○○病院は陰圧個室4床を有し,そのほかに最大36人まで患者の受け入れが可能です,なんて報道されていても,たぶん最大36人まで受け入れるときには,一般病棟2病棟くらいを一時閉鎖にしないとナースが確保できないし,なんてことまでは報道はされないですの.「可能です」なんて言ったらみんなが期待してしまうので,「可能な設計になっていますが,勤務する看護師および人工呼吸器が確保できないため,一般病棟を閉鎖しない限り8人が上限のようです」くらいに報道してくださいな.

うれしそうに「診察拒否」と報道するマスコミの皆様,まずは,感染症の本を読んで,接触感染とか飛沫感染とか空気感染の概念をしっかりお勉強してくださいな.ウイルスと細菌のちがいもちゃんと勉強してくださいね.診察拒否報道をするスペースがあったら,実用的な記事を載せたらどうかしら.ちゃんとした手洗いのしかた,なんて記事でも十分に有用だと思いますの.