高級な病院建築

以前に働いていた病院で,洋風建築の病院がありました.
玄関から入ると,たぶんケヤキでできたもう真ん中がすり減った階段を上がると,院長室でした.院長室の壁は腰板が貼られていて,床はタイル.タイルが万華鏡のような模様で貼られていましたの.今ではとてもできない,贅沢な空間.
でも,外来や病棟は大変でした.
病棟の床も木(フローリング,というよりはムク板なのですが)!だし.どういう扱いになっていたのか知らないけれど,10人部屋くらいのとんでもない病室があったりしていました.
外来のおトイレも,チェーンを引っ張って流す式(!)の和式水洗というとんでもないものだったりしていましたの.
救急外来や循環器科などはあとから継ぎ足した新館の方にあったけれど,神経内科結核病棟は旧館にありました.コの字型の旧館からは中庭が見えました.中庭はいい感じで放置された庭になっていて,木々の緑のほかに,だらしなく茂る(手入れが行き届いていないので)季節の草をみることができました.
外来の廊下は天井が高くて,冷房がはいらなくても,まあまあ涼しいのでした.
旧館ができた時代は,病院がハレの場,というか,上等な非日常の場であったのかしら.天井が高くて,素敵な意匠と良い材料を使ってあると,病気もなんだか治りそう.そして,治らなくて死ぬようなときでも,死ぬんだな,ってことを受け入れられそうなのかもしれません.
わたしがもし,大金持ちの病院経営者で(病院経営は道楽ってとこが重要ですが)あったら,たとえば谷口吉生せんせいに建築物としての病院を設計してもらって,中の細かな仕様は,現場に合わせて作る,みたいな病院を建ててみたいですわ.個室がいっぱいで,お金もちの人をあいてに自費の病院,というもいいのかもしれないのだけれど,谷口吉生設計で,美術館のようであり,宗教施設のようでもあるけれど,中に入ると差額をとらない大部屋が中心の慈善病院っていうのも,悪くはないかもしれませんわ.まあ,道楽で建築しない限り無理だと思うし,診療報酬から建物の維持費を出すのはむりだから,道楽で建物を維持しないとだめだと思うけれど.
ジャスコのような建物だと,新築のうちはぴかぴかでいいけれど,10年もたてば,古ぼけて見えてしまいます.設備は更新しながら50年以上使える建築的な病院があれば,素敵だと思いますわ.