妄想プロット:ジャムパン

研修医になったばかりの頃,とても几帳面な男の子と付き合っていた時期がある.お部屋はいつも整理整頓.文献のコピーの左上にはIDが振ってあって,それは自分が医者になってから読んだ順番.コピーを閉じるホチキスは必ず45度の角度で打ってあって,針は裏側でつぶしてある.
ホテルの朝ごはんのバイキングのとき,ひとつのお皿に山盛りなんてことは絶対になくて,パンはパンのお皿,卵は卵のお皿,サラダはサラダのお皿,と
カトリックの高校を卒業している彼は,まわりからは恋人がいるなんて信じられない,と思われていたらしく,神父さま,なんて陰でいわれていた.
なんで別れてしまったのか,よく思い出せない.

3年目になったとき,ほんのしばらくの間だけ,都会の子と付き合っていた.ホテルの朝ごはんでお料理を順番にとってくる私をみて,「暖かいものと冷たいものが別だったら,大丈夫だよ」と言って笑った.見栄えのする彼と食べるホテルの朝ごはんは,いつもいい席だった.
それじゃ,と留学に行ってしまった.

そのあとは,もっさりとした田舎の県立高校出身の男の子と結構長らく付き合った.何にも知らなくて,いろいろなことを少しずつ教えた.服をそろえてあげて,食事やお酒も教えた.EndNoteすら知らなかったので,論文の仕上げ方まで教えてあげた.はじめの頃,ホテルの朝ごはんで,中国人観光客のようなお皿への盛り方をしていたのは,きびしく調教して改めさせた.
最後は家族のようにマンネリになって,つまらなくなって私から別れを切り出した.

今付き合っている相手は,私より10歳近く上で(一応独身)私大の講師をしている.たいていのことは知っていて,たいていのことはできるけれど,私に何かを教えたりすることはない.ちらっちらっと私のほうが盗む程度.「一人だとおじさん席だけど,アキちゃんと一緒だと,外人席に案内されたりするので楽しいよ」と言ってくれる.

学会のとき一人でホテルに泊まって,一人で朝ごはんを食べるとき,どうか,いい席に案内されますように,といつも思う.
私はいつも最後までパンを少しとっておく.ジャムをたっぷりつけて,最後に紅茶でいただく.これは,誰のくせだったのかしら,と考えると,ずいぶん自分が年をとってしまったことに悲しくなる.