結核病棟の思い出

某有名ブログで紹介されていた本「累犯障害者」.
以前に読んだ時,絶望が文字で表現されてしまったことに,とても衝撃を受けたことを覚えています.
そして,刑務所とちょっと似ている,と思ったのが,結核病棟.

ずっと昔,結核病棟のある病院で働いていたころ,結核病棟には,いろいろな人が入院していて,わたしは,現実は凄すぎると思いながらも,業務としてふつうに病棟に出入りをしていました.

ごく,ふつうの患者さんがいます.
外国人売春婦?とおぼしき患者さんがいます.結核だけでなく,職業柄?他の感染症も持っていたりします.
もとやくざで,点滴を入れる場所に困ってしそうな,全身に模様のある患者さんがいます.
受刑者だったけれど,ガフキーが出てしまってやってきた患者さんがいます.
看護記録の患者背景欄とか特記事項欄とかを見ると,ため息が出そうな患者さんが,いつも病棟にはいるのです.
たまたま結核になってしまった普通の人と,なっててもおかしくないよね,というようないろいろな意味でのハイリスクグループの人が,同じ病棟で入院生活を送っていたのでした.日本なのだけれど,日本語の読み書きできない率は他の病棟と比べて,かなり高い,ちょっと独特な病棟.

普通の人にとって,結核病棟に閉じ込められた生活は,なかなかつらいものだと思います.そこから,出られないのだから.
でも,結核病棟が幸せな人もいるのです.
温かい,栄養のバランスのとれたご飯が1日3回出てきます.
業務上の会話ではあるけれど,毎日,看護婦さんが話しかけてくれます.
決められた日には,お風呂にだって入れます.
誰かから危害を加えられたりする心配もないので夜はゆっくり眠ることができます.

もしもわたしに文才があれば,結核病棟のひとびとを題材に,本を書くこともできるかもしれません.でも,守秘義務があるし,文才もないので,無理.
結核が落ち着いて退院した後,「病院はよかった」と思う患者さんが,たぶん日本中には大勢いるのではないかしら.