貧困とヨイトマケの唄

魔がさして,大みそか紅白歌合戦を観てしまいましたの.
やはり,すごい!と思ったのは,ヨイトマケの唄でした.
わたしにとって,美輪明宏さまは「メケメケ」のひとなのですが,紅白のパフォーマンスは圧倒的でしたわ.
そして,思ったこと.
この唄は普遍的な親子の愛をうたっている,というのも見方のひとつかもしれないけれど,高度経済成長時代を切り取っているうたのような気がしました.

主人公の子供の頃は,ヨイトマケがあって,石の上に柱を立てていた時代.今はコンクリートベタ基礎.「ヨイトマケの唄」の時代にも,すでにヨイトマケは姿を消して,「機械,機械の世の中」になっていたのでした.主人公は工事現場で働く大卒のエンジニア,ということは,土木工学科とか,建築学科とかを卒業して建設会社の社員として現場監理をしていたのかもしれません.ビルや橋や道路をつくるのが光り輝いていた時代.
主人公は昼休みに煙草を吸っているのですが,今は煙草を吸う人は少数派.

「高校も出たし,大学も出た」の時代をちょっと調べてみると,当時の大学進学率は15%くらい.学歴をつけることによって,階級移動が可能であった時代.

日本全体が成長していた時代.
でも,わたしが外来で接する,地方出身で今は寄る辺ない生活保護のお爺さんたちは,ある意味で「ヨイトマケの唄」の主人公にはなれなかった多くのひとびとなのです.

子供のころ,わたしの父が「大学時代おカネがなかった話」というのをよくしてくれた中に,「おカネがなかったので,大学病院の学用患者になって虫歯を直した」というエピソードがあります.それは,とりあえず学生なので時間はそこそこたっぷりあって,学用患者になればタダ!という情報にたどり着けたからで,集団就職で上京して平日に休みを取ることなどできない人々にはタダで虫歯を直すことなどできないのです.
昔は国立大学の学費は安かったし,奨学金もあったし,地方出身者には県人会が経営する学生寮もあった.というのは,当時においても,それなりの学力と情報へのアクセスがあってたどり着けたものなのです.また,公務員として働きながら,中央大学明治大学の夜間部を卒業するなんていうコースは,本人がかなり頑張らなければならなかったのだと思います.

日本の成長にうまく乗ることができた主人公.
もう定年退職をしているだろうし,お墓の下かもしれません.