怖い花子

行ってきてしまいましたの,新橋演舞場
1日座席に座って菊たんを観ているだけで,精神的にも肉体的にもぐったりになってしまいましたの.

朝起きて,朝ごはんを食べて劇場に出勤(?)し,吉野山を踊り,魚屋宗五郎でおなぎさんを演じて,道成寺を踊り,髪結新三の勝奴を演じる,なんていう生活を25日間休みなしに続けている菊たん.精神的な緊張と肉体的な疲労ってどのくらいなのかしら.来月だって,4役もあるってことは,おうちへ帰ってからも,きっと来月の準備をしていることでしょう.

吉野山静御前は,それは綺麗でため息がでるようでした.なので,道成寺の花子もそれはそれは綺麗に違いない,と思っていましたの.
でも,道成寺の花子を見ていると,綺麗だけれど,それより怖くて怖くて仕方がありませんでした.隙なく踊り続ける菊たん.微笑みを浮かべたり,恍惚としたり,睨んだり,いろいろな表情もあるのだけれど,その表情はどこへ向かっている表情なのか,と思うと怖いのです.お仕事というのとはちょっと違う.もうどこかの世界に自分を売り渡しちゃったのではないかしら,とも思いましたわ.

劇場に来る前は,道成寺が一番最後の演目なら,きっと幸福感で胸いっぱいになっておうちへ帰れるのに,なんで最後でないのかしら,と思っていたけれど,道成寺が最後の演目だったら,交感神経優位のままで,大変だったかもしれません.

今日の終わりは勝奴でちょっとリラックス.おめめうるうる,胸元チラリ.上目づかいにちらちら周りを見たり,キセルで煙草を吸ったりしているだけで,菊たんの周囲にはフェロモンがまき散らされているのでした.わたしがお熊ちゃんだったら,白子屋に戻らずに,勝奴のオンナになってしまいそうですわ.

ナゾの覆面座談会リクエスト

学会に行ってきましたの.そして,「女性医師離職問題を考える」というシンポジウムを聴いてきましたわ.
演者は,子供を3人育てながら,市中病院を中心にずーっと勤務していて,学会の会頭までしてしまう,というスーパーなせんせいでした.でも,会場には20代,30代といった,本来聴衆として想定していた属性の女医さんは,あまりいませんでしたの.それはたぶん,抄録を見ただけで,だいたい講演の内容が予測できて,「そのせんせいは素晴らしいかもしれないけれど,自分には同じことは無理」と思う人が多かったのかもしれません.
講演の中で,頭に残っているのは,仕事を続けるためのハウトゥとしての「子供が乳児の間はダンナに仕事をセーブしてもらう」「子供はお受験をさせない」ということでした.そして,「こんなに女医さんが離職するのは,はじめからモチベーションが高くないのでは?」という内容の話もありました.

女医さんの親の中には,「医師免許は使ってもよし,使わずにすめばそれはそれで幸せだし」なんて言う人はたくさんいるだろうし(かつての薬剤師免許とおなじね),高校生のころなんとなく勉強をしていたらそこそこ成績も良くてとくに行きたいと思う大学もないから親と同じ大学に入ってしまったなんていう人もたくさんいるだろうし,医者の父親から「脳外科とか循環器内科はとってもたいへんだから,女の子は皮膚科とか眼科でいいよん」なんて言われている人もたくさんいるだろうし,ぼーっとしているうちに医学部を卒業して皮膚科に入局してしまったひとはたくさんいるのだろうと思います.
そして,ここだけの話だけれど,皮膚科指定の縁談があったりするもの事実.「医学部に入れるくらいのオツムのお嬢さんが欲しいけれど,がつがつ働かれるとうちの子のメイワクなので,仕事はほどほどのひとがいい」なんてね.
あとは,男の医者で自分の同級生や後輩であるカノジョに,「あんまり忙しい科は選ばないでね」なんて言うのは結構多いはず.
たとえば脳外科を選んでしまう人なんかよりはモチベーションの平均が高いはずがありませんわ.でも,他の学会(除く眼科)よりは美人度は上だし,ファッションセンスの平均も高いですの.

『(前略)参加している女性のほとんどは専業主婦だ。
  HBS卒の女性の7割以上が専業主婦になる。
  旦那の稼ぎが良いと働く必要が無いのだ。』
という有名になってしまったTweetを思い出してしまいます.
どこの世界も同じ.
経済的に困っていない場合,たとえばダンナのインパクトファクターアップを犠牲にしてでも続けたいくらい仕事って楽しい?

女医さんの仕事と家庭の両立問題というと,お手本となる人が出てくるのだけれど,どうせだったら,仕事もずっと続けて子供も複数いてなんてお手本ではなくて,「仕事はいったんやめて主婦をしていたけれど離婚したのでガンガン働くようになりました.ブランクは思いのほか大きくて少しでもいいから続けていた方がよかったと反省しました」とか「専門医をとってから子供を産もうと思ったけれどぜんぜん妊娠しなくて,結局だめでした.専門医をとってからなんていっていないでさっさと妊娠」とか一般女性学会員からランダムに選んだ10人くらいを壇上にあげて,シルエットだけを映して音声を変えて座談会,なんていのも面白いのかも.そして各大学の教授・准教授・有名病院部長クラスで女医奥を持つせんせいにも10人くらい壇上に上がってもらって,音声は変えるけれどシルエットはばっちりわかるようにホンネ座談会「ウチは週2だけバイトしてます.大学の給料は安いのでとっても助かってる」「ウチは仕事やめたくないっていうので今は単身赴任です.単身赴任は気楽だよ〜ん」,なんてのも相手方の言い分という意味でも面白いかも.学会でしかできない企画ですわ.

ゴーストライター

さっそく行ってしまいましたわ,「ゴーストライター」.
映像も,積み上げられるプロットも,ポランスキーワールドですの.
感動巨編というのでもないし,派手なアクションがあるわけでもない.
まあ,「ツリーオブライフ」とは対極にあるような映画でした.
そして,わたしの心を引きつけたのは,元首相のアメリカの別荘.素敵な建築とアート.そして家具.
コンクリート打ち放しと石の壁はあの荒涼とした景色を強調しています.そしてゴーストが使うブロイヤーのデスクのそっけなさのなんて素敵なこと.有名な建物をそのまま撮影に使ったのかしら?
何回も観に行ってしまいそうですわ.
お酒を飲みながら観たくなるような,おしゃれ映画ですの.

重症でなければ持ち時間は10分まで

ちょっと前の土曜日のこと.
新患の問診票で,なんだかとってもアヤシイのがありました.どうアヤシイかというと,まず細かい字でこれでもかと漢字をつかってびっしり書いてある.そして,自分で診断をつけて診断名が書いてある.保険証チェックをすると,某マスコミの社員のようでした.地雷感たっぷり.ただし,マスコミ社員にはよくあるパターン.
やがて順番がやってきて,その人の診察となりました.残念ながら,その人が「インターネットで調べて」つけてきた診断は明らかに違っています.それを説明するのが大変で大変で.「あんたの診断が間違えで,私の診断の方が正しかったら,どうしてくれるんだ」とまで言われてしまうのでした.こういうときには,その人の言葉に同意をする「そうですね」とは言ってはいけなくて,話を聞きましたよという合図の「そうですか」で会話をつなぐのですが,おじさんは喋る喋る.
わたしの頭の中は,2系列の進行となり,おじさんと会話をしつつ,「早く演説をやめろ,あんたの後にはたくさんの患者が待ってるよ.待合室の人数から,自分のだいたいの持ち時間を計算しなさいよ」というもう一人のわたしの声が聞こえてきます.
あなたが言っていることはめちゃくちゃである.あなたが「納得ができない.納得がいくまで説明をすべきだ」というのは,他の患者の迷惑になる.なんて言おうものなら大変なことになってしまいます.
仕方がないので,わたしは「わたしはあなたと比べるとずーっと馬鹿なので,あなたの言っていることがよくわかりません」作戦に出ることにしました.「申し訳ないけれど,東大とか慶応とかでている医者ではないので,よくわからないんです」
最終的には,なんとか診察室から退去させたけれど,一日の気力が奪われましたわ.そのおじさんのおかげで,ほかの人々の待ち時間は長く,診察時間は短くなってしまったのでした.
相手の退路をふさぎながらロジカルに「あなたの言っていることは間違っているし,診察室での振る舞いはほめられたものではない」と言うこともできるけれど,こういう相手にそれをすると,100倍返しされる危険があるので,がまんがまん.
自分が正しい人で,科学を学んでいない人に「あなたが言っていることは間違っている」というのはとってもタイヘン.

The tree of life

観に行ってきましたわ,「ツリーオブライフ」.予備知識なく.
わたしがこれまでに観た映画のなかで一番といっていいくらい,客席がものすごいことになっていました.
まず,前からも横からも気持ちよさそうないびきの音が聞こえます.
中途退場するお客さんも続出.
エンドロールで立ち上がる人多すぎ.
吐き捨てるように,「わけわかんない」と口に出すおじさんがいたりします.
わたしも正直なところ,わけがわからない2時間でした.
たぶん,キリスト教の考え方が小さいころから自分の考え方のベースになっていないとわからないような,引用や比喩がたくさんあったのだと思います.
テレンス・マリック監督の「天国の日々」はわたしのとても好きな映画の一つです.わたしが好きな理由は,リチャード・ギアと美しい映像と悲惨なストーリーですの.でも,「天国の日々」にも,キリスト教的な世界観がベースとしてあるのかもしれない,と恥ずかしながら,今日初めて考えました.
ひょっとして,「ツリーオブライフ」って,テレンス・マリック監督の最後の映画でメッセージ性が強いのかしら,と思って,おうちに帰ってからネットで調べてみたところ,テレンス・マリック監督ってまだ67歳で,新藤兼人監督の年まではまだ32年もあるのでした.
そして,配給会社のひとって,凄い,と思いました.この映画は内容的には,ヒューマントラストシネマものなのかもしれないけれど.画像的には大きな映画館で見た方が絶対いい映画だと思います.おうちDVDなんて論外.大きなスクリーンにかけたくて,配給計画とかCMとかを考えたのかしら?

手に優しいお皿洗い

食洗機がない場合の食器の洗い方講座ですの.
お湯の無駄遣い,と言われてしまいそうですが,目的は,手に優しいこと,お皿の汚れが良く落ちることですので.
★用意するもの
アクリルネットスポンジ
洗いおけ
フツーの台所用洗剤
★洗い方
ご飯茶わんとカトラリーのようなこびりつき系のものは,あらかじめ,お湯を張った洗いおけに入れておきます.
それ以外のお皿などは,いきなり蛇口の下で洗い始めます.
蛇口からじゃあじゃあ体温程度のお湯を流しながら,その下で,まずは洗剤なしでお皿を洗います.お皿は必ず裏から.洗ったお皿はテキトーに重ねておきます.
お皿のあとに,ご飯粒が取れやすくなったお茶碗やカトラリーを蛇口の下で洗剤なしで洗います.
下洗いが済んだら,洗いおけに再びお湯を張り,台所用洗剤をちょっとだけ入れて,まずはスポンジで洗いおけの内側を洗います.
そのあと,アクリルネットスポンジでほぼつるぴかになった食器を洗いおけの中の希釈洗剤液(?)で洗いながら,洗いおけの中に入れていきます.
この時点で,油汚れや食品のにおいは完璧に除去されています.
洗剤洗いが終わったら,食器の入った洗いおけに,蛇口からじゃあじゃあお湯を入れます(食器が少なければ,この時点で洗いおけの中の洗剤液を捨てます).蛇口の下では,1枚1枚食器をすすいで,水切りに食器を移していきます.洗いおけの中の洗剤濃度はどんどん希釈されていくので,最後のころになると,すすぎはちょいちょいというかんじ.
★良いところ
食器はつるつるぴかぴかです.
洗剤はちょっとで済みます.
★悪いところ
お湯をたくさん必要とします.
アクリルネットスポンジ(ちょっとお高い)がないと成立しない洗い方です.

学会の帰りに

学会に行ってきましたの.
とっても暑くて,ホテルからは出ることができませんでしたわ.

いろいろな演題やシンポジウムを聴いたのですが,うーんと考えさせられる議論がありましたわ.ここでステロイドをバーンと行きたいときに,他科のドクターから「感染症があるのでそれはだめ」とバーンと言われてしまった場合どうするか,という永遠のテーマ.

膠原病内科,神経内科や血液内科のように免疫がらみの疾患を多く扱っているドクターだと,そういうことはまずないのですが,TcellやBcellには大学卒業以来縁がなくなってしまっているキング・オブ・ドクターと思っている科のドクターなどとは議論が難しいことが多いのです.
もうずーっと前の話ですが,重症の成人麻疹にIVIG+ステロイドで治療していたら,わたしの横で聞こえるように某科のドクターが研修医に「感染症ステロイド使うなんて,信じられない」と言っていたことがありましたの.首絞めしようかと一瞬思ったのですが,そいつを相手にするのは,時間と感情の無駄遣いのような気がしたので,その場は聞こえないふりをしました.そいつの机の上に,呼吸器管理を要した麻疹の症例の日本語の症例報告でも置いておけばよかったかも,と後で思いましたわ.

でもって,帰りの電車の中で,他の科のドクターに敬意を払って対応してくれるドクターはどういう人か,というのをずっと考えました.これまで,わたしに敬意を払って対応してくれた人々の顔を思い起こしました.

まずは,よく勉強していて,自分が知らないことがこの世の中にたくさんあることを知っている人.このクラスターの人は,たぶんどんな相手に対しても敬意を払って対応することができるのです.彼らからは,担当患者が直接お世話になるだけでなく,診療上のヒントをたくさん与えてもらっています.

そして,ある時点から,急に敬意を払ってくれるようになった人.ある時点からというきっかけは,

その人の担当患者に発生した重症薬疹に対して,ヘビーな治療をした
その人がずっと抱え込んでいて診断がつかないでいた疾患の診断をつけた(これは多くは,血液疾患や自己免疫疾患がらみ)あるいは治療上のチップスを与えた
その科のレアな疾患を疑って対診を出したら,診断があたっていた

などです.
「いやー,これからはわからない病気があったら,服ひっぱがして全身みて,ちょっとでもぼちぼちがあったら,のりせんせいのところに対診依頼だすわ」なんて言ってくれたドクターの顔は今でも覚えていますわ.

でも,診断をつけたら,逆切れしてしまうドクターというのも少なからずいるのでした.まあ,ドクターカースト最下位のわたしとしては,そういう人のガラスのプライドをどのように傷つけないで仕事を進めるかはなかなか大変ですの.逆切れしてしまう人って,いろいろな意味でうまくいっていない方だったりするので.